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最高裁判所第一小法廷 平成5年(行ツ)135号 判決 1994年12月22日

上告人

原国政裕

外二九八名

右二九九名訴訟代理人弁護士

仲山忠克

被上告人

金城利一

右訴訟代理人弁護士

与世田兼稔

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人仲山忠克の上告理由第一点について

一  原審が適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

豊見城村は、同村字与根地先の公有水面約二九万三〇一六平方メートルについて、昭和六二年二月一四日、沖縄県知事から埋立免許を受けて埋立てを行ったが、免許出願に際しては、昭和六二年に開催される国民体育大会の終了後、埋立地のうち約八万〇六一七平方メートルを公共用地とし、残余の約二一万二三九八平方メートルを有償で処分して埋立事業費に充当することとしていたところ、このうち本件土地(一四万六〇五一平方メートル)については、その地質が軟弱であること、航空法上の制約があること、村の財源確保や雇用促進に資するなどの理由から、用途をゴルフ場と指定して売却することを企図していた。そして、その売却方法については、(1) その用途からして特定少数企業を対象とする売却となるため、周辺地価より低い価格で売却することは不適当であること、他方、(2) 本件土地は公有水面埋立法二七条及び公有水面埋立法施行規則六条によりその処分に当たっての不当な受益が禁止されており、これに反する場合にはその処分についての県知事の許可が得られなくなるおそれがあり、また、当時社会問題化していた地価高騰を抑え周辺地価との均衡を保つ必要もあるので、不当に高額な価格による売却を避けるべきであることなどから、全埋立費用を有償で処分する埋立地の面積で除した額を単価として計算した最低制限価格(二三億四六四七万円)とそれに4.7パーセントの利益率を計上した最高制限価格(二四億五六七五万四〇九〇円)とを設定し、最低制限価格以上最高制限価格以下の範囲の価格をもって申込みをした者のうち最高の価格の申込者を契約の相手方とすることとし、そのような内容の一般競争入札を実施した。その結果、右最高制限価格を超える申込みとなった二件を無効とし、最低制限価格以上最高制限価格以下の範囲内の価格(二四億四〇三二万八八〇〇円)をもって申込みをした者一名を落札者と決定した。

二  原審は、地方自治法二三四条三項の法意に照らすと、普通地方公共団体の収入の原因となる契約についても、普通地方公共団体が被る損害を防止し、あるいは、取引秩序の維持その他公益目的を達成するために必要性が認められるときには、最低制限価格のほかに最高制限価格を設定し、最低制限価格以上で最高制限価格以下の範囲内の申込みをした者のうち最高の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とする一般競争入札を実施したとしても、直ちに同項の趣旨を逸脱する違法なものということはできないとした上、本件においては、前記のような事情から最高制限価格を設けたもので、公益目的を達成するために必要性があったのであり、その決定価格も合理的範囲内にあったものと認めるのが相当であるから、本件競争入札を違法とすることはできないと判断し、上告人らの請求を棄却した第一審判決を是認して、上告人らの控訴を棄却した。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

地方自治法は、普通地方公共団体が行う契約の締結については、原則として、一般競争入札によるべきこととしている(同法二三四条二項)。ところで、一般競争入札とは、契約に関する事項を公告し、不特定多数の者を入札に参加させ、当該普通地方公共団体に最も有利な条件で申込みをした者を契約の相手方として決定するものである。そして、同法は、競争入札の方法について、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とするものとする(同条三項)と規定しているが、右の一般競争入札の性質からして、競争入札の方法としては、普通地方公共団体の収入の原因となる契約については、最低制限価格を定めてそれ以上の範囲内で最高の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とし、普通地方公共団体の支出の原因となる契約については、最高制限価格を定めてそれ以下の範囲内で最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とすることを定めたものと解すべきである。また、同項ただし書の趣旨からすると、同法は、前者の契約について、一般競争入札において最高制限価格を設けて入札を実施することを認めていないものと解すべきである。そうすると、普通地方公共団体が、収入の原因となる契約を締結するため一般競争入札を行う場合、最低制限価格のほか最高制限価格をも設定し、最低制限価格以上最高制限価格以下の範囲の価格をもって申込みをした者のうち最高の価格の申込者を落札者とする方法を採ることは許されず、このような方法による売却の実施は違法というべきである。

もっとも、普通地方公共団体が不動産等を売却する場合において、合理的な行政目的達成の必要などやむを得ない事情があって、売却価格が一定の価格を超えないようにする必要があり、これを一般競争入札に付するならば、最高入札価格が右一定の価格を超えるおそれがあるときには、その売却は、「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」(地方自治法施行令一六七条の二第一項二号)に当たるとして、随意契約によって行うことができるものというべきである。ただ、その場合においても、普通地方公共団体としては、右の事情につき配慮した上で、当該地方公共団体に最も有利な価格で売却すべき義務を負うのであるから、そのような価格を売却価格として売却しなければならない。

これを本件についてみると、原審の適法に確定するところによれば、本件売却は、売却の対象が公有水面埋立法による埋立地であるため、法令上その処分価格に制限があり、また、地価高騰の抑制のため、周辺地価との均衡を保って売却する必要があるなどの事情があったというのであるから、売却の性質及び目的が競争入札に適しないものであったということができる。したがって、豊見城村としては、本件土地の売却に当たっては、右のような事情を配慮して売却価格を定め、随意契約により売却すべきであったのであり、最高制限価格を定めた一般競争入札によって行った本件売却の実施は違法といわなければならない。これを適法とした原審の判断には、同法二三四条三項の解釈適用を誤った違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

四  以上によれば、論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件は、本件売却価格と随意契約によったときの売却価格として推認される価格との差異の有無など、損害の発生の有無及びその額につき、更に審理を尽くさせる必要があるので、これを原審に差し戻すこととする。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三好達 裁判官大堀誠一 裁判官小野幹雄 裁判官大白勝 裁判官高橋久子)

上告代理人仲山忠克の上告理由

第一点 原判決には、地方自治法二三四条三項の解釈を誤って適用したため、判決に影響を及ぼすことが明らかなる法令違背が存する。

一 本件訴訟の争点に対する原判決の判断

本件訴訟の最大の争点は、普通地方公共団体のなす一般競争入札において、普通地方公共団体にとって収入の原因となる契約について最高限度価格を設定し、それを超える入札額を無効とすることが地方自治法二三四条三項に違反するのか否かである(原判決摘示の争点一)。

これについて原判決は、「普通地方公共団体の収入の原因となる契約についても、普通地方公共団体が被る損害を防止し、あるいは、取引秩序の維持その他公益目的を達するために必要性が認められるときには、最低制限価格のほかに、最高限度価格を設定し、最低制限価格以上で最高限度価格以下の範囲内の申込みをした者のうち最高の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とする一般競争入札の方法を実施したとしても、直ちに同法二三四条三項の趣旨を逸脱する違法なものということはできない。」と判示し、それに基づいて上告人(控訴人)らの本訴請求を棄却した。

しかし、右判示は、以下に述べるように、地方自治法二三四条三項の解釈を誤って適用したものである。

二 競争入札における落札者決定の原則規定

普通地方公共団体が契約を締結するに際し、競争入札に付する場合の落札者決定方法の原則について、地方自治法二三四条三項本文は、「普通地方公共団体は、一般競争入札又は指名競争入札(以下、本条において「競争入札」という。)に付する場合においては、政令の定めるところにより、契約の目的に応じ、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもつて申込みをした者を契約の相手方とするものとする。」と規定している。

ここで言う「一般競争入札」とは、契約に関し公告をし、不特定多数の者を入札の方法によって競争をさせ、普通地方公共団体にとって最も有利な価格で申込みをした者との間で契約を締結することとする契約方式をいう。

この方式は、普通地方公共団体にとって、契約を公正かつ有利に締結して、会計法上の非違を防止しようとするもので、公正性の維持にあるといわれている。

競争入札には、地方自治体にとって収入の原因となる契約、支出の原因となる契約の二つがあるが、右の規定はこれらのいずれの契約についても適用される落札方式の原則を定めたものである。

そして、右にいう「契約の目的に応じ」とは、収入の原因となる契約か支出の原因となる契約かの区別に対応してという意味である(「全訂地方公共団体の契約」綾野芳一著、ぎょうせい、一一九頁参照)。

「予定価格」とは、「地方公共団体が契約の締結に際してあらかじめ作成する契約の一応の基準となる価格をいう」が、それは、「適正に計算した額を基準として地方公共団体が契約の締結に応ずる限度額(支出に関する契約にあっては上限、収入に関する契約にあっては下限)として定められる」(注釈地方自治法」山内一夫外編、第一法規、三四八二頁)のである。

また、「予定価格の制限の範囲内」の意義については、「予定価格の制限の範囲内、すなわち、収入の原因となる契約にあっては、その予定価格を最低としてそれ以上の価格で最高の入札をした者、また支出の原因となる契約にあっては、その予定価格を最高としてそれ以下の価格で入札した者のうち原則として最低の価格で入札した者をもって落札とするのである……」(前掲綾野著、二九頁)、「………開札の結果、予定価格の制限の範囲内、すなわち、収入の原因となる契約については最高、支出の原因となる契約については最低の価格で入札した者がある限り、それぞれの入札者が自動的に落札者となるものであって、地方公共団体の契約担当者に対しては、寸分の裁量の余地が与えられていない。」(前掲綾野著、一二〇頁)、「落札は、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とすることとしている(法二三四Ⅲ)。したがって、地方公共団体の収入の原因となる契約にあっては、予定価格を最低として、それ以上の価格の最高の価格で入札した者を落札者とし、地方公共団体の支出の原因となる契約にあっては、予定価格を最高として、それ以下の価格で入札した者のうち原則として最低の価格で入札した者を落札者とする。」(「地方公共団体の財務管理」小林紘・上吉原一天・奥田義雄・磐城博司、ぎょうせい、三八〇頁)と解されている。

このように、地方自治法が一般競争入札制度において、「予定価格の制限の範囲内」という規制を設けたのは、公共の財産を取り扱う普通地方公共団体の特性に鑑み、その財政を健全化し、契約締結に際して普通地方公共団体に損失を与えることのないように歯止めをかけるための方策としてなのである。従って、それは普通地方公共団体にとって有利となる規定であり、そのように運用されなければならず、そのことが普通地方公共団体の財政に不利に作用することは許されないのである。

三 競争入札における落札者決定の例外規定

前記の落札者決定の原則に対し、地方自治法二三四条三項は、「ただし、普通地方公共団体の支出の原因となる契約については、政令の定めるところにより、予定価格の制限の範囲内の価格をもっても申込みをした者のうち最低の価格をもって申込みをした者以外の者を契約の相手方とすることができる。」として、例外規定を設けている。

右規定をうけて、地方自治法施行令一六七条の一〇は、一般競争入札において最低価格の入札者以外の者を落札者とすることができる場合として、①工事又は製造の請負契約の締結に際し、最低の価格で入札した者を落札者とせず、次順位者を契約の相手方とすることができる場合(同条一項)と、②同じく工事又は製造の請負契約の締結に際し、あらかじめ最低制限価格を設けて、予定価格の制限内の価格で最低制限価格以上の価格をもって申込みをした者のうち、最低の価格をもって申込みした者を落札者とすることができる場合(同条二項)との二つを規定している。

このように、地方自治法二三四条三項がただし書きによって例外規定を設けた趣旨は、一般の取引価格や常識を逸した低価格の落札による契約の不完全履行によって結果的に普通地方公共団体が損害を蒙るという弊害を防止するためであると解されている。すなわち、右例外規定は、契約の種類、目的、性質等から「不完全な履行が通常予測しうる契約」について、その不完全な履行を防止して完全な履行を確保する見地から認められたものである。

かかる観点に立って、右施行令は、このような種類の契約として、明文をもって「工事又は製造の請負の契約」に限定して規定しているのである。

四 解釈による例外の拡大の違法性

1 このように、地方自治法二三四条三項ただし書きは、「普通地方公共団体の支出の原因となる契約」についてのみ明文をもつて例外の対象とし、それを受けた同法施行令一六七条の一〇は右例外の対象となる契約の種類を「工事又は製造の請負の契約」に限定して規定しているのである。

このことは、「工事又は製造の請負の契約以外の契約」は、それが地方公共団体にとって支出の原因となる契約であっても、その目的、性質等に照らして不完全な履行は通常予測しえないとの前提に立って、右例外の対象から除外したものと解される。

まして、普通地方公共団体にとって、「収入の原因となる契約」については、その契約の種類、目的、性質に照らし、右の「工事又は性質の請負の契約以外の契約」よりもより強い根拠をもって、およそ不完全な履行により普通地方公共団体が損害を蒙るという事態は予想しえないところであるとの理由で、例外の対象から除外したのである。従って、収入の原因となる契約については一切の例外を認めないのが法の趣旨であると解すべきである。

そう解することが、右ただし書き規定の文言のあり方、及びその立法趣旨から言って当然な法解釈なのである。また、右ただし書き規定が普通地方公共団体にとって最も有利な条件を提示した者を落札者と決定すべきとの原則に対する例外である以上、例外規定の解釈・運用は厳格でなければならず、いやしくも拡大解釈されてはならないという法解釈の基本的態度からいっても当然である。

よって、普通地方公共団体にとって収入の原因となる契約について、法の明文規定を越えて、解釈によって例外を認めることは法の趣旨を逸脱し、違法というべきである。

2 右のように例外を一切認めないことによって、何んら不合理や不都合な結果が生じるものではない。普通地方公共団体の所有地をその性格上どうしても一定の限度額で売却しなければならない特段の事情が存する場合は、当該売買契約を地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「その性質が………競争入札に適しないもの」であると認定して、随意契約によることが法的に可能であるからである。

このように法的に可能な方途があるにもかかわらず、一般競争入札において、普通地方公共団体にとって収入の原因となる売買契約について最高限度価格を設定し、それを超える入札額を無効とする例外方式をわざわざ採用する必要性や合理性は豪も存しないのである。

五 本件競争入札の違法性

1 本件競争入札は、普通地方公共団体たる豊見城村の村有地売却処分に関してなされたものであり、豊見城村にとって収入の原因となる契約についての競争入札であったにもかかわらず、「最高限度価格」なるものを設定し、それを超える入札価格をすべて無効とし、その結果、豊見城村にとって最も有利な価格で入札した者を落札者として決定しなかったものである。

このように本件入札は、上限額を意味する最高限度価格を設定して競争入札における落札者決定方法の原則に反してなされたところ、例外の一切認められてない普通地方公共団体の収入の原因となる売買契約についてなされてものであるから、地方自治法二三四条三項に違背することは明白だといわざるをえない。

従って、最高限度価格を設定してなした本件入札の違法性を否定した原判決は、地方自治法二三四条三項の解釈を誤ったといわざるをえない。

2 なお地方公共団体がその所有地を一般競争入札によって売却するに際して、最高限度価格を設定することの可否について、自治省行政局行政課内・地方自治制度研究会編著「地方自治法質疑応答集」は明確にそれを否定する。

すなわち、右「応答集」は、「一般競争入札において最高限度価格を設けることの可否」という設問を設け、これに対し、「一般競争入札とは、契約に関する公告をし、不特定多数人をして競争させ、当該地方公共団体に最も有利な条件を提示したものを契約の相手方として決定するもので」あり、「地方公共団体に最も有利な条件を提供する者とは、公有財産、物品等当該地方公共団体の有する金銭以外のものを金銭に換価する場合には、最も高価格を提示した者であり、また地方公共団体が不動産、物品等のものを購入する場合や工事または製造の請負等一定の行為の提供に対価を支払う場合には、最も低廉な価格を提示した者と解せられ(る)」との前提に立って、工事または製造の請負契約については例外規定が法定されているが、「設問の場合は不動産の売却についてであり、工事または製造の請負契約の場合のような例外的措置を定められてはいないので、現行法上は、最高限価格を設けて、その範囲内での最高価格入札者をもって落札者となすようなことは、できないものと解される。」と述べている。

そして、「当該市有地の性格上どうしても一定の価格で売却しなければならない事情の存するとき(一般的にあまり考えられない。)は、………当該売買契約を令第一六七条の二第一項第二号の『その性質………が競争入札に適しないもの』である場合と認定して随意契約によることとし、契約の相手方は、当該契約に関する事項を公表して公募し、抽せんにより決定して、その者と随意契約を締結する方法」によるとしている。

右「応答集」は、自治省行政局行政課内・地方自治制度研究会の編著となっているが、実質的には自治省の公式見解とみなすべきであろう。

六 原判決の違法・不当性

前記一項で引用したように原判決によれば、普通地方公共団体の収入の原因となる契約について、一般競争入札における落札者決定方法の例外が認められる根拠は、「普通地方公共団体が被る損害を防止し、あるいは、取引秩序の維持その他公益目的を達成するために必要性が認められるとき」であるとされている。

そして原判決は、「これを本件についてみると、前記のとおり公有水面埋立法二七条及び同法施行規則六条によって禁止されている不当な受益を得ることなく、かつ、地価高騰を抑止するため周辺地価との均衡を保つため、最高限度価格を設けたものであるから、公益目的を達成するために必要性があったものということができ、その決定価格も合理的範囲内にあったものと認めるのが相当であるから、本件入札において最高限度価格を設定したことをもって違法ということはできない。」と判示している。

一般競争入札における落札者決定の例外規定の趣旨は、一般的には普通地方公共団体が被る損害の防止にあるといわれているが、原判決はそれに加えて新たに「取引秩序の維持その他の公益目的の達成の必要性」をあげている。そして本件入札については、不当な受益の禁止と地価高騰の抑止という公益目的達成の必要性があることを根拠に、最高限度価格を設定してなされた本件入札の違法性を否定している。

普通地方公共団体における一般競争入札による契約締結の方式は、契約を公正かつ有利に締結することにその基本的目的があるのであって、落札者決定の原則規定はまさに右目的の積極的実現方法であり、例外規定は右目的を損害の防止という消極的側面から規定したものである。従って、例外規定の趣旨は損害の防止にあるのであって、公益目的達成の必要性はそれには含まれていないか、せいぜい付随的なものにすぎない。むしろ法は、公共財産を取り扱う普通地方公共団体の公益性に鑑みて、その損害を防止することが公益目的を達成することになるとの前提に立って、普通地方公共団体における一般競争入札制度を認めたものというべきである。

従って、例外が認められるのはあくまでも普通地方公共団体の損害の防止という見地からであって、損害の発生が予測しえない場合や有利に作用する場合は、例外を認めることはできないのである。

本件入札は、最高限度価格を設定したことによって、最高の入札額である金二七億四五三六万九九〇〇円が無効とされ、有効とされた金二四億四〇三二万八八〇〇円が落札額となったのである。最高限度価格を設定しなければ当然に最高の入札額である前者が落札額となったのであるから、普通地方公共団体たる豊見城村は、本件入札において最高限度価格が設定されたことによって、それらの差額たる金三億〇五〇四万一一〇〇円の損害を被ったことになるのである。

このように本件入札は、最高限度価格を設定することによって、損害の防止に役立つどころか逆に多額の損害を発生せしめたのである。

原判決は、例外の認められる根拠に損害の防止をあげながら、本件入札について豊見城村の被った損害の有無に言及することなく、もっぱらせいぜい付随的根拠にしかすぎない公益目的達成の必要性のみをあげているが、そのこと自体原判決の不当性を物語っているといえよう。

また原判決にいう公有水面埋立法二七条及び同法施行規則六条の不当な受益の禁止の実現は、売買対象地が埋立地という特殊性に照らし、当該売買契約を地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「その性質………が競争入札に適しないもの」として随意契約を締結すれば可能であって、敢えて本件のように最高限度価格を設定してなされた一般競争入札の方法による必要性はまったく存しないのである。現に本件入札実施前に、沖縄県は豊見城村に対して随意契約による売却を指導していたにもかかわらず、それを無視して本件入札は実施されたのである。

本件入札の対象地が公有水面埋立法に基づく埋立地であっても、その売却方法として一般競争入札方式が選択・採用されたのであるから、当然、その法定された方式には拘束されざるをえないのである。

さらに原判決は、日本国有鉄道清算事業団による所有地の売却について、上限価格付き競争入札が実施されていることを、本件入札の違法性を否定するひとつの根拠にあげている。しかし右事業団は地方自治法の適用対象となる普通地方公共団体ではないのであるから、同事業団所有地の売却方法を本件入札の適法性の根拠にすることは不当である。

以上のように原判決は、立法論としてならともかく、解釈論としては地方自治法二三四条三項の解釈を誤ったものといわざるをえない。それがため最高限度価格を設定した本件入札を違法ということはできないと判示して、上告人らの本訴請求を棄却したのである。

よって原判決には明白なる法令違背があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかだといわざるをえないのである。

第二点 原判決には、豊見城村契約規則五条の解釈を誤って適用したため、判決に影響を及ぼすことが明らかなる法令違反が存する。

一 本件入札において最高限度価格を超える入札を無効としたのは、事前の無効事由の公告を義務づけた豊見城村契約規則に反してなされたものかどうか(原判決摘示の争点二)について、原判決は、「新聞による競売公告中には、入札の無効事由に関する記載はなかったものの、同公告に記載のない事項については村有地処分要綱による旨の記載がなされており、その後、本件入札において申込みをした三者らに対しては、村有地処分要綱が交付され、同要綱中には入札最低価格の記載とともに最高限度価格を設定することが明記され、豊見城村職員による口頭説明もあったのであるから、本件入札申込者にとって、最高限度価格を超える入札が無効であることは明らかにされていたものといえる。村有地処分要綱の入札の無効に関する記載中には、その旨の記載がないけれども、入札最低価格未満の入札が無効であるのと同様、入札最低価格の記載及び最高限度価格を設定する旨の記載によって明らかであるとの理由から記載が省略されたにすぎないものと考えられる。」と判示して、「最高限度価格を超える入札が無効となるとの公告を欠いていたとはいえず」との結論を下している。しかし、右判示は以下に述べるように豊見城村契約規則の解釈・適用を誤ったものである。

二 豊見城村契約規則が競争入札における無効事由の事前の公告を義務付けているのは、不特定多数の者に事前に告知することによって無効事由を明確化し、もって一般競争入札の公正を確保することにある。従って、そこでいう「公告」とは不特定多数の者が認知しうる状態を意味し、それが特定もしくは少数の者しか認知しえないような状態であればもはや「公告」とは言えないと解すべきである。

本件について検討するに、不特定多数の者が認知しうる状態となる新聞による競売公告には入札の無効に関する記載がなかったことは、原判決も認めるところである。要は、右公告に記載のない事項については村有地処分要綱による旨の記載がなされ、同要綱中に最高限度価格を設定することが明記されていることが、最高限度価格を超える入札が無効であることの「公告」と言いうるか否かである。

村有地処分要綱は、本件入札において申込みをした三者らのみに対して、入札申込時に直接手交して配布されており、それ以外の方法での配布はなされていないのであるから、入札申込みをした三者という特定かつ少数の者しか認知しうる状態にはなかったというべきである。従って右要綱の入札申込者のみに対する配布をもって「公告」とみなすことはとうていできないといわざるをえない。

三 さらに村有地処分要綱には、最高限度価格を設定することが明記されているだけで、それを超える入札が全部無効であるのか、超える部分についてのみ無効であるのかはまったく不明である。

入札最低価格未満の入札がすべて無効であることは、普通地方公共団体にとって収入の原因となる契約締結についての競争入札があることからいって自明のことであるが、そのことは最高限度価格を超える入札の効力とはまったく無関係なことであり、同入札の効力を規制するものでもない。従って、入札最低価格未満の入札が無効であることの一事をもって、最高限度価格を超える入札が全部無効であることの根拠とすることはできないというべきである。従って最高限度価格設定の明記は、直ちにそれを超える額の入札を全部無効とするものではないのである。

四 以上により、本件入札には、「最高限度価格を超える入札が全部無効」であること、及びその旨の「公告」がなされたことのいずれもなかったというべきであるから、原判決は豊見城村契約規則五条の解釈・適用を誤った法令違背があり、それが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

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